下請けからの脱却で 社員のやりがい生む
「社員がやりがいを持てる企業」を目指して、システムの下請け事業からの脱却を果たした株式会社YEデジタル。「やりがいのある社員の生産性は2倍になる」と改革をけん引してきた遠藤直人代表取締役会長に思いを聞いた。
働き続けたいと思う会社を目指して
YEデジタルの前身は安川電機の情報処理部門で、遠藤会長は1976年、安川電機に入社し、情報処理部門に配属された。当時、オフィスに世界屈指のコンピューターが設置されている花形の部⾨だったが、扱っているのは社内の給与計算や人事システムで、利益を生み出さないコストセンターだった。1978年には、情報処理部⾨が安川電機から分離独⽴し、IT システム開発を請け負う業務がメーンになった。遠藤会長は「これでは『技術を極めたい』という思いで入社した優秀な社員は、やりがいを感じることができず、『社員がやりがいを持てる仕事とは?』『働き続けたいと思う会社とは?』と考えるようになった」と述懐する。
「ITシステム開発の世界で⾃分たちの意志を持って業務に当たれるのは、一次請け(元請け)を担うプライムベンダーと呼ばれるSIerだけ。下請けに甘んじていたら未来はない」と考え、下請けで培ってきた技術やノウハウを生かし、コンサルができるプライムベンダーを⽬指そうと決意した。
さらに製造業の現場で培ってきた TQC(統合的品質管理)をアピールして、直接発注してもらえるように働きかけ、近年はベンダーの選定から任せてもらえるようになった。遠藤会長は「プライムベンダーとして仕事に取り組むことで、社員のやる気も上がり、上げた成果が次につながるようになった」と胸を張る。
2011年に関係子会社の社長に就任した遠藤会長は、孫請け的な仕事から脱却するために、サービス業への転換を決意。世界的な企業情報システムであるSAPの認定コンサルタントの資格をメンバー全員に取得させた。電話窓口担当者がそのまま技術サポートができるコールセンターを構築し、顧客企業の海外拠点からSAPに関する質問や相談を受け付け、各拠点の活用状況を本社にレポートするサービスを始めた。すると、大好評で、顧客企業のSAPの稼働率が予想以上に上がり、他社のパッケージのコンサルサービスも構築して、営業利益率の大幅な向上に成功した。
2016年にはYEデジタルに戻り、今度はIoT部門が製造業向けに培ってきた技術を他分野に転用し、さまざまなソリューションとして提供しようと考え、「こういうプロダクトをこうやって売っていきたい」という企画を、社員が社長・常務にプレゼンし、採択されればヒト・モノ・カネを動かすことができるプロダクトオーナー制度を導入した。そこで生まれた「スマートバス停」というプロダクトが「第9回ものづくり日本大賞」の優秀賞を受賞するなど、いくつかの成功例が上がっている。遠藤会長は「チャレンジングな風土が社内に根付いてきたことが一番の成果」と自信を見せる。
社員を幸せにすることが経営者の役割
遠藤会長は「やりがいを感じ、やる気にあふれる社員の⽣産性は、満⾜している社員の2倍になるというデータがあり、周囲の社員が感化されるという好影響も期待できる」と語る。そのために「社会をどう変えたいのか、良くしたいのか、という大きな絵を描くことが必要だ」として、全部門に「大きな絵を描いていこう」と働きかけた。すると、どの部門もその気になって考え出し、新しい事業も生まれたという。
さらに、残業を減らす施策や女性の採用に力を入れ、今年の新卒採用の7割以上が女性となった。平均年収1000万円を目指して、利益の3分の1は社員に還元し、2023年度の初めには1人10万円の物価高騰支援金の支給も決めた。「社員アンケートでは『ものすごくやりがいがある』が12%に上りました。日本の平均は6%なのでかなり高い値ですが、GAFA並みの20%が目標です」と胸を張る。
遠藤会長は「経営者の一番の役割は、社員を幸せにすることで、社員が幸せでなかったら、お客様にも良いサービスが提供できず、会社が存続できない」と力を込めた。